その他活動・書籍ご紹介

建築・設備診断に関する啓蒙活動や関連書籍の執筆など、診断について多くの方々に興味・関心、問題意識を持っていただけるよう、日々取り組んでいます。

執筆・取材協力など
  • 『建築設備と配管工事』2004年5月号 シリーズ:診断に必要な非破壊計測方法②「超音波厚さ計測について」執筆
  • TBS系列『イブニングファイブ』(H18.3.2)取材協力 (躯体内部調査)
  • 建設環境情報センター建設倫理研究会 東京電機大学 技術パフォーマンス 特別講義講師(H18.10.19) 「建設倫理と消費者」
日本建築設備診断機構『建築設備の診断とリニューアル』
『考え方・進め方 建築設備の診断とリニューアル』日本建築設備診断機構編
(H19.2.20オーム社発行)
超音波・内視鏡・抜管・耐震調査等の6項目の執筆を担当
『水環境設備ハンドブック』
『水環境設備ハンドブック-「水」をめぐる都市・建築・施設・設備のすべてがわかる本』監修:紀谷文樹
(H23.11.25オーム社発行)
61.配管の劣化診断、62.劣化診断の方法の執筆を担当
会員
  • 特定非営利活動法人給排水設備研究会(JSPE) 賛助会員
  • 公益社団法人空気調和・衛生工学会(SHASE) 正会員
  • 一般社団法人東京都建築士事務所協会(TAAF) 賛助会員
  • 一般社団法人日本建築学会(AIJ) 正会員
  • 一般社団法人日本建築設備診断機構(JAFIA) 正会員、専任講師
  • 特定非営利活動法人建設環境情報センター(CEIC) 会員(H25.4解散)
(50音順)
建設環境情報センター(CEIC)会報寄稿
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建物診断の現状と問題点(建設環境情報センター(CEIC)会報№25寄稿)

株式会社建物診断センター代表取締役 幡井健治

リニューアルという言葉が一般の社会に浸透した昨今、それに伴う計画・調査・診断などの業務もそれぞれ認知され、その手法も一定の効果を上げられるまでに至った。特に診断に関しては、スクラップ&ビルドが当たり前だった時代にほとんど存在感を示すことすらできなかった状況を考えると、この変化は実に目覚ましいものといえる。しかし、同じ診断でも医療と比較するとまだまだ及ばない感もある。

本来、診断のメリットは建物の所有者や使用者が得られるものであり、建物を有効に活用するための手段である。そのためには発注者、設計者、施工者に共通の理念が必要とされるが、建設行為における立場の違いから、診断のメリットは様々な観点で捉えられることが多く、しばしば理想と現実のかけ離れた状況が見受けられる。また、診断のメリットは即効性があるとは限らない。建物は他の製品と違い、長期間使用されるものだけに、その効果を実感しにくいこともある。

建物診断が意味するところは、建物の状態を把握することにより、今後の可能性について検討するための重要な基礎となることである。そのためには、診断をただ行えばよい訳ではなく、どのようなことを行うのか充分計画することが非常に重要である。ただし、この重要性が深く理解されていることは残念ながら少ない。現状では、診断費用や工期などが優先され、その中でできる範囲に収められているような場合もある。

建物の診断が深く理解されない背景には、発注者の認識不足がある。発注者としては、その必要性を感じてはいるものの、どのような診断によってどんな結果が導き出されるのかという基本的な部分において充分な検討時間をかけず、診断費用の安いところで決定してしまうことがある。見積もり合わせで一番安いところを「良心的価格」と考えて採用する場合や、後に控えた工事と抱き合わせた「無料診断」を採用する場合などである。

病院で健康診断を受ける場合は、適正な費用を支払っている。だからこそ、その結果が良い場合は安心を手にすることができ、悪い場合は早期に対策を講じてもらうことができる。自分の身体を無料で診断してもらっても、多額の薬代を請求されたら、診断結果に疑問を持たないでいられるだろうか。

安価なだけの行為は大きな代償を払うことがある。良い設計者、施工者が活躍できる環境を整え、優良な建築ストックを維持していくためにも、適正な診断を行う発注者の存在が必要である。建設行為の継続的発展に対し、発注者に期待される役割は大きい。

本稿の著作権は建設環境情報センターにありますので、無断転載等はご遠慮願います。

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若者における建設倫理の構築 東京電機大学 技術パフォーマンスにおける建設倫理研究会活動報告
(建設環境情報センター(CEIC)会報№26寄稿)

株式会社建物診断センター代表取締役 幡井健治

CEICでは、社会全体に対して「建設倫理」の必要性を唱え、適正なインフラの構築に向けて様々な方法で事業活動を展開している。特に有志による建設倫理研究会においては、次の世代を担う若者に対し、今後どのように働きかけていくかを研究する必要を常日頃感じている。その一環として、今回、CEICの理事でもある東京電機大学(TDU)立花教授の協力を得て、学生のための建設倫理に関するゼミナールを企画した。企画内容は以下の通りである。

目的: 建設倫理の構築のための若者を交えたゼミの開催により世代間のコミュニケーションを図り建設倫理をより普遍的なものにする。
場所: TDU神田キャンパス
日時: 9月第3・4木曜日、10月毎週木曜日の計6回、5時限目
  • テーマ:
  • ①倫理とは何か鈴木理事長代行
  • ③建設倫理と環境倫理井端監事
  • ⑤建設倫理と消費者幡井理事
  • ②建設倫理の概要鈴木理事長代行
  • ④建設倫理と文化吉田理事
  • ⑥設計者の倫理阿部理事
対象者:TDU学生(3、4年生を中心)
定員: 20名

この建設倫理に関するゼミは、TDUの「技術パフォーマンス」と称する単位取得のできる授業として、5時限目に設定され、授業終了ごとにレポートの提出が義務づけられた。CEICは、このレポートにより、学生が建設倫理をどのように捉えているかを知ることができ、この蓄積によって今後の活動の方向性を得ることが期待できる。このように、建設倫理の普遍化のための啓蒙活動と今後の研究課題の模索を兼ねた試みとして、開催に至った次第である。

私が担当した「建設倫理と消費者」では、消費者の考え方が建設業界に与える影響について、いくつかの例を示しながら講義を行った。ある意味において、全ての人々が消費者であることから、学生の立場に合わせたケーススタディを行い、内容を第三者的に考えさせ、主観とのギャップを感じられるようにしたつもりであったが、建設業界のとば口にも来ていない彼らには、実感及ばずといったところかもしれない。しかし、近年発生している諸問題には、企業の利益重視が過度となり、倫理観が欠如したために起こったものが多い。こうした問題に直面したときには、流されずに立ち止まる意志が不可欠である。このような観点から講師という立場よりも業界の先輩として話をさせてもらった。

このゼミによって、建設倫理の重要性を感じてもらうことができたならば、若者に対する建設倫理の普遍化の第一歩として、充分な意味があると思われる。CEICでは、今後もこのような活動を通じて、建設業界の発展に貢献したいと考えている。最後になったが講義を担当された理事、監事、関係者の方々に改めて感謝の意を表したい。

本稿の著作権は建設環境情報センターにありますので、無断転載等はご遠慮願います。

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特集2009「大不況下の今、求められているもの」建築物の法定検査に求められること
~厳格化で事故は減らせたのか~
(建設環境情報センター(CEIC)会報№33寄稿)

株式会社建物診断センター代表取締役 幡井健治

建設業界も不況のあおりを受け、施工計画中の物件がストップするなど、発注の減少が続いている。このような状況下では、信頼性や安全性などに対する投資が後回しになることがあり、良質なストックを維持していくことも困難になる。信頼性や安全性をある水準以上に保持する方法はいくつかあり、建築物に対する法定検査もそのひとつである。

この法定検査は、多数の死者を出した繁華街の雑居ビル火災やエレベーター、ジェットコースターなどの事故を受け、平成20年度から内容が厳格化されている。通常、確実に検査を行っていれば事故は回避できると考えられるため、これで一安心といいたいところだが、このところエレベーターの事故が相次いでいることもあり、実情はまだまだ解決しなければならない問題が山積している。

建築物の法定検査として、不特定多数の利用が想定される特殊建築物などについては、定期調査を行うことが義務づけられている。この調査は、建築基準法第12条に基づき、建物を利用している人々の安全を確保しようとするものである。調査は一級建築士などの法定資格者が行い、調査結果を特定行政庁に報告することになっている。現地調査では建物全般について非常に広範囲の内容を細部に至るまでチェックするようにフォーマットが定められており、建物の安全性を確保するための制度として必要かつ有用なものであることは議論をまたないが、実際の調査の実施という面から見ると、制度の効果的な運用については危ういものであることは否定できない。

この調査は、調査報告書の提出についての通知を行政から受け取ることから始まるが、建物所有者が通知を無視するなど、調査を実施していないケースが多く見られる。罰則規定もあるのだが、重大な事故でも起こらない限り、現状では規定違反に問われることは少ない。

また、調査を実施している場合でも、調査内容が専門的かつ広範囲であるため、充分な経験のない調査者では一定の水準で調査を行うことができない。ある建物では、現場にも出向かずチェックシートを埋めているだけという話も聞く。無論、この場合は調査者の倫理観が欠如しているといわざるを得ないが、そのような特殊なケース以外でも、調査価格のダンピングによる影響を受け、一定の水準による調査を行うことが困難になっているという問題がある。

さらに、今回の厳格化ではより一層の内容の充実が求められているものの、行政から建物所有者へのアナウンスが乏しい現状がある。そこで法定資格者が行政に代わってその部分まで担っているのだが、法定資格者は市場競争原理に支配される民間の企業や個人であるため、適正価格での調査を主張する法定資格者が建物所有者の支持を得られるかどうかは疑問である。

調査を行う法定資格者も立場によって様々であり、検査会社の他、設計、施工、管理などを行う会社に所属している場合と個人で行っている場合がある。そもそも建設業界は請負で成り立っているため縦の関係が強く、受注を確保し、かつ円滑な関係を維持するために、コストは大きな問題である。調査業務がこのような環境におかれていては、適正であるべき調査結果に何らかの影響を与えることがないと言い切れるだろうか。良いものは良い、悪いものは悪いと正しく判断するためには、その結果が後の利益に影響することのない第三者による調査業務の実施が必要である。

現地調査時においてもいくつか問題があり、事務所ビルなどの場合、テナントの業務に支障が出ないよう調査員が立入りを制限されたり、夜間や休日の調査を余儀なくされる場合もある。法定検査は所有者のみならず使用者の安全も守るためのものであるが、なかなか理解されないのが現状である。

より良いストックは、法定資格者の努力だけではなく、行政、建物所有者と共に作り上げていくものである。また、法定検査や日常点検を視野に入れた設計、施工がなされ、適正な維持管理を実施していくことが、建築物の継続的発展に結びつく。

建物は一般的な工業製品と異なり、長い期間使用できることが求められる。その間、竣工時の信頼性及び安全性を失わないために、法定検査が必要であることはいうまでもない。しかし、それを効率的に実施していくためには厳格化だけではなく、法定検査を基準に沿って確実に行えるような環境の整備が不可欠であり、建物所有者、行政、法定資格者が建設倫理に根ざした考え方を持つことが重要である。

本稿の著作権は建設環境情報センターにありますので、無断転載等はご遠慮願います。